日本で最も漂着ごみで困っている自治体がある。
長崎県対馬市だ。
今回は、いつもの荒川を離れ、対馬市の海岸線を歩いた。
実際に歩いた対馬の海岸線には想像を超える量の漂着ごみが打ちあがっていた。
対馬の漂着ごみから現場活動の持つ価値について考えた。
IVUSAは若い世代のボランティア活動を支援する団体である。
対馬の状況を知ってもらう清掃イベントを企画するとのことで同団体の現地視察に同行させていただいた。
現地では(NPO)環境カウンセリング協会長崎および(一社)対馬CAPPAに案内いただいた。
対馬
対馬は長崎県に属し、九州の北方の玄界灘に浮かぶ。主島は対馬島(つしまじま、つしまとう)で、このほか属島として6つの有人島(海栗島、泊島、赤島、沖ノ島、島山島)と102の無人島がある
約3.1万人が暮らしており、沖縄本島と北方四島を除けば、佐渡島、奄美大島に次ぐ面積を持つ。
朝鮮半島(釜山)から約49.5kmの距離にあり、古来より国防の要所として
重要視されてきた島だ。
現在は年間約40万人の韓国人が観光に訪れると言う。単純に12カ月で割ると常に人口よりも多くの観光客がいることになる。
対馬市は長崎県に属するが経済的には福岡県とのつながりも強く、
福岡からは北東へ138kmの距離だ。
島の地形のほとんどはリアス式海岸であり、
海岸線の総延長は915kmにもおよぶ。
烏帽子岳展望台から望む対馬。入り組んだ地形となっている。
この海岸線を大量の漂着ごみが襲っている。
赤島-レジャースポットを埋め尽くす漂着ごみ
最初に訪れたのは「赤島」である。現在は赤島大橋(昭和54年完成)で対馬島と結ばれているが
その昔は離島の離島であった。
赤島周辺の海底は砂地であり、太陽光の反射でエメラルドグリーンに輝き、
対馬ではダイビング等の
レジャーポイントとして知られている。
赤島の北部、メイン道から下りてすぐ、少し入り組んだに海岸に降り立つと、
言葉を失う光景が広がっていた。
浜の延長は100mにも満たず、面積自体は広くないが2層にも3層にも積み重なった大量の漂着ごみだ。
堆積した漂着ごみ。漁網は絡み合い、埋もれ、引き抜くことができない。
(対馬市赤島にて撮影)
発泡スチロール製の巨大フロート、硬質プラスチック浮き、
漁網、アナゴ筒が目立つ。
しゃがみこんでみると白砂だと思っていたのはバラバラになった発泡スチロールの破片だった。
局所的ではあるが、厚さ数十cmは堆積している。
ごみの上を歩くとバリッバリッと劣化したプラごみがバラバラに踏み砕かれる。
意図せずして、マイクロプラ化に力を貸してしまうような状況だ。
漂着していたPETボトルをざっと調べてみると、
20本のうち10本はラベルがはがれており、出どころは不明だ。
残りの10本の割合は、日本産3本、韓国産4本、中国産3本といった感じだ。
漂着ごみの量は風向き、潮流、台風の発生状況に大きく左右される。
年間回収量は平成22年で1.5万㎥、平成23年は0.9万㎥におよんだ(脇本ら、2014)
ただし、清掃がされている海岸は対馬の海岸線の5%程度に過ぎないと言われている。
対馬市には一般廃棄物の処理施設として「対馬クリーンセンター」がある。
しかし、回収した海岸ごみはごみに付着した塩分やダイオキシン類の発生が考慮され、
同センターでは処理していない*。このことから島外処理には多くの海上輸送費や処理費が
のしかかることになる。
*発泡スチロールの一部は島内で前処理がされている
クジカ浜-巨大なごみが多く人力の限界を感じる
続いて向かったのはクジカ浜(豊玉町)と呼ばれる場所だ。
メイン道路で車を降り、10分程度歩いた先にある。
浜の延長は150mに満たない。遠目では漂着ごみの量は少なそうに見えるが・・・
急斜面を降り、近づくと大量の漂着ごみが流れ着いていた。
ポリタンク、漁網、発泡スチロール巨大フロートが目立つ。
漁網は重く、複雑に絡み合っており、人力で回収するにはかなりの人数が必要になりそうだ。
対馬CAPPAの上野代表理事によれば、局所的ではあるが、このような海岸がいくつも存在しているという。
アクセスが困難で利用がほとんどない海岸の場合はそのままとなってしまう。
一度回収したとしても、半年ほどでほぼ同量のごみが再び漂着するという。
これら離島の漂着ごみ問題に対処するため、2009年「海岸漂着物処理推進法」が施行され、
回収処理事業を補助してきた。
当該法ができるまでは漂着ごみは漂着した都道府県が回収したごみの処理をすることが課せられていた。
施行当初は全額補助であった当該補助金も現在の補助率は約9割。
1割は対馬市が負担している。
約6割-7割のごみは海外から流れ着く。
海洋ごみ問題は気候変動と同じく、越境問題であり、
世界が一丸とならないと解決は難しい。
しかし、その解決にはおそらく長い時間が必要だ。
街中の小河川をのぞきこむと
厳原(いずはら)や上対馬町の
小河川(厳原本川、比田勝川)をのぞき込むと
投棄されたごみがところどころにみられる。
画面右に傘が沈んでいる(厳原本川)
下流部には投棄されたごみが(比田勝川)
誰が投棄したのかは分からないが、
河川/海洋ごみ問題は非常に小さなことが1つ1つ積み重なって生じる。
河川/海洋ごみ問題に関しては、その発生源を断つ対策が最重要である。
しかし、諸外国との協調には時間が必要であり、
限界効用逓減の法則*に照らし合わせても、発生を0にすることは容易ではない。
総量規制以外の解決方法がなかなか思い浮かばないが、
業界団体と協調し、使い捨てプラスチックの削減を検討する必要はあるだろう。
当面は環境保全の観点からも啓発および処理回収の両輪をまわすことが必要と思われる。
*単位量当たりの財(モノやサービス)の投入によって得られる効果。指数関数的に減少する。
荒川には散乱ごみが多い
荒川下流域でみられるごみはポリ袋やPETボトルを中心とした散乱系の小さなごみが主で、粗大ごみは比較的少ない。
これなら人力によるボランティアでの回収も何とか可能な範囲だ。
その一方、対馬の海岸線に打ち寄せるごみにはポリ袋やPETボトルといった散乱系のごみももちろんあるが、
巨大な発泡スチロールフロートや漁網などの巨大なものが多い。
加えて、海岸線へのアクセスの問題も大きい。ボランティアで回収するには多くの予算と人手が必要だ。
共通点としては数か月後には多くのごみが漂着することだろう。
荒川では荒川流域の、対馬では日本海流域(?)のごみが押し寄せる。
どちらも発生源対策の必要性を痛感させられる。
荒川の河川ごみ。散乱系のごみが多い。
原体験の持つ価値とは
対馬CAPPAの上野代表理事と末永理事の言葉が忘れられない。
「日本国内でこれほど海外からごみが流れてくる場所は対馬のほかはないでしょう。でも、ごみ問題だけではなく、対馬の本当の美しさも見て欲しいんです。」
IVUSA、環境カウンセリング協会長崎、対馬CAPPAのメンバーと(対馬市環境政策課にて)。
現場活動の大切さ
現地踏査をする中で案内をしていただいた環境カウンセリング協会長崎の浅田さんから何度も聞いた言葉ある。
「対馬の海岸ごみの状況はいくら動画や写真で伝えてもダメなんです。やはり、現場に来て汗水流して回収しないと伝わりません。泥臭いけど思いをもってやらないと。」
遠く離れた荒川と対馬の活動だがつながった気がした。現状を伝えるのはやはり現場体験が一番だ。
とは言うものの、である。現場に出るというのは実はものすごくハードルが高い。
しかし、現場に出ないと一生気がつかないことがある。
筆者は以前、JICAの仕事で東ティモール民主共和国に赴任したことがある。
それまでの自分は「国内にも問題が山積しているにも関わらず、なぜ海外で仕事をすることが大切なのか」を
説明できないまま現地に出発した経験がある。
しかし、現地で活動を続けるうちに、世界大戦で私たちの先人が東ティモールを占領し、多くの現地人を手にかけたこと。ガス田など経済とも深く関わりがあることなどの”つながり”を知り、国際協力の意味を見出すことができた。
「知ったことによる責任」という考え方がある。「知らない幸せ」も確かにあるのかもしれないが、知ることが後になればなるほど、それはそれで自らを苦しめるような気がしている。少なくとも、知ることから逃げるべきではない、そう思う。
数多ある社会課題、荒川クリーンエイド・フォーラムではそのたった1つの河川/海洋ごみ問題しかお伝えすることができないが、”価値ある知識のための現場体験”を今後も伝え続けていきたいと思う。
この記事は三井物産環境基金による支援を受けて執筆しました。
【2019/7/21シンポジウムのご案内 IVUSA主催】
2019.07.21 PM 於 早稲田大学早稲田キャンパス6号館001教室 IVUSA主催
海と日本PROJECT フォーラム「海ゴミ問題に対してユースは何ができるか?(Youth for the Blue)」
【参考】
対馬市:対馬市海岸漂着物対策推進行動計画(2015)
http://www.city.tsushima.nagasaki.jp/policy/images/hyoutyakubututaisaku_h27.pdf
脇本ら:対馬市における海洋・海岸汚染の現状と課題及び展望について、日本マリンエンジニアリング学会誌 第49巻 第 2 号(2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/49/2/49_170/_pdf/-char/en