2月15日に開催された報告連絡会の第二部では、行政、企業、市民団体を代表する方々をお招きして「どうなる、公的市民参加の可能性!~荒川下流における自然地管理の展望~」と題したテーマで話題提供いただきました。
その後、今後の自然地管理のありかたについて、みなさまでディスカッションを行いました。
Ⅰ.話題提供
波多野 真樹様【国土交通省荒川下流河川事務所所長】
濱本 信樹様【住友生命保険相互会社調査広報部CSR推進室長】
稲宮 須美様【江戸川・生活者ネットワーク事務局長】
話題提供1 波多野様:「荒川下流部自然地管理・運営の取り組みについて」
<荒川下流部自然の成り立ち>
・荒川下流部(岩淵~河口)は、人工の「放水路」(昭和5年完成)。
・昭和42 年東京オリンピックを契機とした「河川敷開放計画」により、荒川の河川敷を造成し、グラウンド、
公園として活用がはじまった。
・高水敷造成の時期が遅れた橋梁の上下流や、東四つ木地区、西新井橋上流地区などにおいて、断片的にヨシ原が残った。
・その後、都市域に残る荒川の自然環境が再評価され、平成2年から行われた「多自然川型づくり」とともに、様々な自然環境回復の取り組みが行われている。
<荒川下流部の自然がかかえている課題>
・河川敷を自然に任せてきた。行政として、自然そのものの維持・管理を行えないためである。
結果として、自然地に外来種が繁茂したり、樹林化した。
・また、都市部を貫流しているため、流域からのゴミの流入も多く、自然地にゴミが堆積した。
・自然地を管理することは、行政だけでは予算上、制度上で限界。多様な主体が連携・協働することが必要。
<荒川下流部自然地管理・運営検討会>
・目的:自然地の目指すべき方向性、管理・運営の方針、内容及び役割分担など基本的方針を定める。
・検討会メンバー:学識経験者、NPO団体、地元自治会、地元自治体、荒川下流河川事務所
・モデル地区を2箇所設定し討議:①千住桜木地区(東京都足立区)②墨田地区(東京都墨田区)
・開催時期:平成23年2月5日 ~ 平成24年1月17日(計5回開催)
<検討事項>
1.維持管理は何を目標にするのか?(目指す姿)
2.何を行うのか?(管理内容)
3.誰がやるのか?(役割分担)
4.どういう仕組みで行うのか?(運営方法)
→検討会にて話し合った結果、「自然地管理・運営計画」として整理。
<荒川下流自然地管理・運営計画(千住桜木地区)>
―維持管理目標(目指す姿)-
・多様な生きものが生息・生育する、大規模自然地として管理・運営していく。
・水際の複雑な入り込みのある地形と、そこに形成される干潟・ヨシ原を保全する。
・市民と行政の協働を実現するための「新たなしくみ」の形成を目指す。
―活動、役割分担の内容―
・作業内容は、草刈りやゴミ拾いなどの維持作業
・動植物のモニタリング調査を行うことで維持管理の効果を確認
・維持管理を行う為に、観察会、環境学習会などのイベント企画や運営を実施
・活動をホームページや区報に掲載する等広報に努める。
―維持管理の役割分担―
・この場所で活動している団体がおらず、また面積が非常に広いため、多くの人々の協力が必要。
そのため、広く広報し、活動団体を多く募集する必要がある。
・役割分担をすぐに行うことは難しいので、準備期間、移行期間、将来と役割を変えていく。
・準備期間では、行政が役割を担い、将来は活動団体が主体的に役割を担っていくことを目指す。
<荒川下流自然地管理アダプト制度>
活動団体「荒川水辺サポーター」を募集
・千住桜木自然地、小松川自然地において、維持管理活動を行う目的とする「荒川水辺サポーター」を募集
・荒川下流河川事務所と活動団体との間で合意書を締結
・維持管理活動として、ゴミ拾い、草刈・草抜き、動植物調査を実施
・行政は活動団体を支援
①維持管理活動に必要な備品の貸与、②回収したゴミの処分、③活動の広報、④アダプトサインの設置 等
話題提供2 濱本様:「スミセイ・ヒューマニー活動について」
<経営の要旨>
・住友生命の企業理念である「経営の要旨」に「共存共栄 相互扶助の理念」があり、本業である保険事業を通じて「社会公共の福祉に貢献すること」を明確に表明しています。
<CSR経営方針>
「経営の要旨」に示された普遍的な使命をCSRの視点から再整理したものが「CSR経営方針」で、具体的内容は次の通りです。
「住友生命は保険事業の健全な運営とその発展を通じて、豊かで明るい長寿社会の実現に貢献します。この理念のもと、誠実な業務遂行・健全な財務基盤を通じ、お客さまをはじめとした各ステークホルダーに最も信頼・支持され、持続的・安定的に成長する会社を目指します。」
<住友生命の社会貢献活動>
豊かで明るい長寿社会の実現のためには、社会的課題の解決に貢献していくことが大切であり、「-少子化・子育て、-介護・医療、-芸術・文化、-地域社会・国際社会、-地球環境」の5つを重点分野として様々な活動を行っています。
<ヒューマニー活動>
「ヒューマニー」とは、「人間味あふれ(ヒューマン)、地域社会と調和を図れる(ハーモニー)企業でありたい。」という想いを込めた当社の造語で、職員自ら進んで取組む社会貢献活動をヒューマニー活動と呼んでいます。
このヒューマニー活動は、今年で20周年を迎え、今年度は全国で延べ3万人を超える参加者を予定しております。
<荒川クリーンエイド・フォーラムとの活動>
活動の目的:
1.川の自然環境を守り、自然豊かな荒川を守る
2.ボランティアマインドの更なる醸成
3.コミュニケーション(職場・家庭)の活性化
・懸命に取組んだ分きれいになり、達成感が得られる。
○平成23年度
・東京本社で約400名の役職員が参加
○平成24年度
・新入職員研修として実施するとともに、役職員の家族参加、支社も実施する等拡充
○今後
・荒川活動の更なる充実・大阪本社等への活動の広がり
話題提供3 稲宮様:「生き物あふれる川を未来につなごう”小松川自然地”管理を市民の手で」
河川敷を市民の手で管理する取り組みを行っている。
なぜ協議会か?→「新しい公共」モデルに応募。4団体+江戸川区がチームを作った。
東京では39事業が採択された。
<活動地域はこんなところ>
1.東京を流れる都市河川のひとつ = 人工の河川
*明治40年・43年の洪水を契機に、同44年より20年かけて開削された
2.東京都市街地再開発事業地 = 新住民がたくさん
*昭和47年~。亀戸・大島・小松川(98.6ha)、小松川 15000人/計画18700人(従前8000人)
3.豊かな自然 = 草花・昆虫・水生生物 多種
・小松川自然地は再開発地区と隣接している。川のそばには家が密集している。1200万人が訪れ、隣接する都立大島小松川公園は広域避難場所に指定されている。→災害に強いまちがコンセプト。
<こんな活動をしています>
1.自然地を訪れ、親しむ =里川プログラムの実施
2.自然地の成長管理 = ・外来種の除草による植生管理、・生き物のモニタリング、保全、・景観の形成
3.参加の層を広げる = ・普及啓発の工夫 ・町会、学校、企業への呼びかけ
<これからどうする>
★持続可能な「新しい公共」のための3つのポイント★
1. 参画の幅を広げる=効果的な広報
2.資金の確保=民間企業の参画
3.規制の緩和=従前のルールに「新しい公共」の概念をサインボードの設置・活用について
看板設置場所は江戸川区管理地。 企業メッセージは東京都屋外広告物条例によりNG
<「東京らしい里川」とは>
川は水の恵みだけでなく、風の道でもあり、人の心をも潤す、都会の貴重な自然です。
そんな川に親しみ、投網やよしず編みなどを遊びとして楽しみながら利用することは文化の伝承にもつながります。
人々が都市の河川に関わり、適切に管理することで、都市の自然を豊かにしていきます。
・管理を前面に出すと人は集まらない。学び、遊び、社会貢献が重要。
Ⅱ.パネルディスカッション
司会:
佐藤 正兵【荒川クリーンエイド・フォーラム代表理事】
テーマ:どうなる、公的市民参加の可能性!~荒川下流における自然地管理の展望~
佐藤:目指すべき自然の状態は何か?
波多野様:多様な生物が生息する豊かな自然。希少性は生物学的には把握していないが、市民が価値を認めているなら支援していきたい。市民が望む自然地の保全活動を後押ししたい。
稲宮様: 人が利用しながら適切に管理するのが良い。
小松川自然地は東京ならではの場所で、駅からも4~5分。近くにはバーベキュー広場、アスレチックもあり千本桜があり、沢山の人に利用してもらいやすい場所。
濱本様:住友生命では、様々な生命を育む川の生態系を守り、豊かな自然を子どもたちに残したいという想いで活動に参加している。
荒川はアクセスが良く、気軽に立ち寄れる。環境学習や自然観察等で、誰もが楽しめ、利用できる自然な場所になってほしい。
佐藤: 市民参加による自然地の利用と管理はどうあるべきか?
波多野様:荒川下流河川事務所は施設管理者でしかない。木工沈床などを置いて施設を管理することはできるが、そのほかは市民の手によって助けてもらいたい。協働というよりは、手を貸してもらいたいというスタンス。アダプトが浸透して、残された自然に価値を見出し、適正に管理されるのが良い。
稲宮様: 自然地を利用するのには、学び、遊びが必須条件。楽しんでもらうのが大事。
ガールスカウトの活動では、投網名人が来て魚を捕ったり、現地で豚汁をつくったりして、毎年参加してもらう工夫をしている。そのうえで管理する。適正に管理するとはいえ、そのリーダーシップを誰がとるのが望ましいのかが課題。市民が主体になる場合、その継続性に不安がないか。市民が実施する中で持続可能性が問われる。
維持管理ではなく成長管理。外来種を除去して、在来種を呼び戻す。それをすることで景観もよくなる。そのままの保全ということもあるだろう。そこは議論。そのためには専門家ともつながる。多様なひとの参加で、いろんな意見が聞ける。5団体だけでなく、街づくりや子育て支援などの団体ともつながっていきたい。
稲宮様: 都市河川は貴重だが、都会の人は気づかないほど忙しい。まず、生活の中で身近に感じられるように啓発に努めなければならない。関心のない人にどう働きかけるか?
市民が中心となって持続可能性を促進する新たな仕組みづくりが必要。「新しい公共」の予算も使い道が制限されていて使いにくい。国の制限で、民間の資金を投入しにくい部分を何とかしたい。
サインボードについては阻害要因がある。東京都の屋外広告物条例がネックになっている。いろんな市民参加の回路は作られはじめているが、その仕組みは変わらず関わり方は難しい。今回は荒川下流河川事務所さん、江戸川区さんとも考えてくださっている。
佐藤: サインボードに支援企業さんの社名を入れることで広告料のようなものが入らないか検討してきたが、現状では難しい。協議会の看板を荒川下流河川事務所の管理地に立てることに関しては前進している。
会場から里海・橋爪:施設や建物は資金調達しやすい。ただ、自然保護でそれを活用して名前を出すのは興ざめするので、賛成できない。今だったら、ネット上でアピールするような工夫が自然保護には向いているのではないか。
波多野様:公共的な活動をしている市民団体のネックは資金確保であろう。一方、企業のCSRが高まっている。これがうまく市民団体の支援につながればよいが、公共の空間で商行為をしてはならないこととなっている。
行政として、企業からの資金援助が善意なのか商行為(CM)なのか判断は困難。第三者的な認証機関があると良い。
<まとめ>
波多野様:従前より市民団体と連携してきたが、企業とのお付き合いはなかった。今後は三者で公共的な取り組みが出来ると良い。
稲宮様:政権が変わっても新しい公共の考え方は変わらないと思う。新しい公共に関して、公助は共助を支えるだけでなく、共助では難しいところを公助が最前線で働きかける役割も重要だと思う。
濱本様:美しい川、皆が楽しめる川を守るために、一企業としてより積極的に活動に参画していきたい。
佐藤:ありがとうございます。企業は社会的責任としてきれいな川を守る活動に参加するというお話があったかと思います。市民はもちろんお金のためではなく美しい川、楽しい川のために活動に参加しています。今日のデスカッションを生かし、荒下さん、企業さん、自治体、そして市民が協働・連携し、活動がいろんな形で広がっていくことを期待します。本日は長時間にわたりどうもありがとうございました。これで終了させていただきます。